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2009年7月19日 (日)

『官僚たちの夏』に出て来る夕張と長崎の炭鉱事故のモデル

 TBSテレビドラマ「官僚たちの夏」に、そのシーンが出て来るか否かは現時点(2009/07/18)では不明ですが(多分、出て来ると予想しますが)、このドラマの原作である城山三郎の小説『官僚たちの夏』 には、後に主人公・風越信吾の部下・鮎川光太郎が夕張と長崎の炭鉱事故で陣頭指揮のために奔走した上で、やがて過労から体を壊して、殉職するようにして死んでいく場面が出て来ます。

 

官僚たちの夏
官僚たちの夏








 

 この炭鉱はどこでしょうか?。結論から先に申せば、夕張市の北炭夕張鉱と、長崎県旧・伊王島町(市町村合併により、現・長崎市)の伊王島炭鉱で、両方共既に閉山した炭鉱です。

 前回の日記にも書いたとおり、私はかつて、1999年7月から3年間、通商産業省(途中から、現・経済産業省)所管の特殊法人(当時。現・独立行政法人)「新エネルギー・産業技術総合開発機構(略称:NEDO)」に社外出向して、通産ファミリーの一員として国の石炭政策(石炭業界産業政策)の行政業務に従事していましたので、炭鉱事故というと思わず、気になってしまいます。

 当初は、会社(北炭こと北海道炭礦汽船)が爆発防止のために坑道を水没させ、他の手段が無かったのでやむを得ず鮎川が了承するシーンがありましたので、条件反射的に1981年(昭和56年)の北炭夕張新鉱のガス爆発事故を思い浮かべました。ですが、昭和30~40年代初めのドラマで昭和50年代後半の事故が出て来るのは、時期的にあまりにも平仄(ひょうそく)が合わないと思ってよく考え直してみました。小説『官僚たちの夏』が最初に出たのは1975年(昭和50年)で北炭夕張新鉱のガス爆発事故以前の時期ですので、この小説の中に1981年(昭和56年)の北炭夕張新鉱のガス爆発事故が入っている訳がありません。ですから、小説の中の炭鉱事故は、別の事故だということになります。

 小説『官僚たちの夏』 は、「ノン・フィクションではないが、事実に基づいていて、限りなくノン・フィクションに近い」というジャンルの小説ですので、元になった炭鉱事故はある筈です。鮎川光太郎のモデルになった人物は、通産官僚の川原英之です。川原英之通商産業省鉱山保安局長として奔走していたのは、1964年(昭和39年)から1965年(昭和40年)にかけてのことです。

 ウィキペディア・北炭夕張炭鉱によれば、北炭夕張炭鉱では1965年に第一砿で爆発があり、62人もの死者がでたことが分かりました。「恐らくこれだ!」と思い、念のため裏付け調査したところ、この事故について川原英之政府委員として答弁した衆議院の石炭対策特別委員会議事録を発見し、確認することができました。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/046/0268/04605280268021c.html (リンク先URLは2009年7月18日現在)

 また、小説では鮎川光太郎は夕張に続いて長崎の炭鉱事故でも陣頭指揮をとっています。この長崎の炭鉱については、この事故に関して同様に、鮎川のモデルとなった川原英之政府委員として答弁した衆議院の石炭対策特別委員会議事録
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/048/0268/04803030268006a.html (リンク先URLは2009年7月18日現在)
を見つけた結果、旧・伊王島町(市町村合併により、現・長崎市)にあった伊王島炭鉱だということが分かりました。伊王島炭鉱は、かつてNEDO時代に私も坑道に入坑した池島炭鉱と同じ崎戸・高島炭田(西彼杵炭田)に属する、離島の炭鉱です。

 かつてNEDO炭鉱政策業務に従事して、かつ、2006年,2007年と相次いで両親を亡くした悲しみから立ち直れていないために犠牲者や遺族の気持ちに共鳴してしまいがちな私は、炭鉱事故の悲惨な死傷者の話を聴くと、涙が止まらなくなります。恐らく、鮎川光太郎のモデルになった川原英之も、同様の気持ちを持っていたからこそ、弱っていた体でも鞭打って陣頭指揮をとっていたのでしょう。正に殉職、というか、さながら戦死だと思いました。

 自分にとっては、悲しくて涙が止まらなくなるような、炭鉱の場面が載っていた本でした。

(後日追加)2009年9月6日の放送を見ていたら、長崎県の「松池炭鉱」という炭鉱が出ていました。「松池炭鉱」の労使紛争は、原作の小説には出て来ないエピソードです。これは名前から申せば、松島炭鉱(株)の池島炭鉱だと考えるのが妥当だと思うのですが、NEDO在籍中に池島炭鉱を1年間ほど直接担当していた自分の記憶では、「かつてストライキがあった」旨の記憶はありません。まぁ、自分が生まれた頃の大昔のことは存じ上げないので知らないだけだと思い、池島炭鉱について載っているホームページを見まくってみましたが、分かりませんでした。なお、松島炭鉱(株)は本来の創業の地は文字通り「松島」という池島炭鉱とは異なる島の炭鉱ですが、「松島炭鉱(松島鉱業所)」は炭鉱事故により戦前に既に閉山しているので、「松島炭鉱(松島鉱業所)」である筈もありません。番組の時期は同社の「大島炭鉱(大島鉱業所)」もまだ閉山前だった筈ですが、大島鉱業所でもストライキの事実を確認できませんでした。

 「松池炭鉱」のモデルってどこなのでしょう?。松島炭鉱(株)の池島炭鉱ではないのでしょうか?。私は、NEDO在籍中の2001年に閉山間近の池島炭鉱に検査で入坑して直接知っている炭鉱であり、池島炭鉱には強い思い入れがありますので、べらぼうに気になります。閉山間近のこの時の心を痛めながらの入坑に関しては、拙歌「閉山」30首(平成十四年(2002年)短歌現代新人賞次席入選作品)の中には、この時の思いを詠んだ歌が数首入っています。

 なお、池島炭鉱太平洋炭礦の閉山時に「行き場の無い失業の大量発生を救えなかった」という「行政マンとしての敗北感や申し訳なさ」に苦悩した思いが、後に経営学徒としては、2000年代以降に自分の研究テーマを地域産業振興にした、モチベーション(研究動機)になった旨は、前回の日記のとおりです。この産業振興への思いからも、『官僚たちの夏』 には感情移入してしまいます。この点について、最初にこの日記を書いてから後で、以下のとおり詳しく追加補記します。以下の追加補記数段落の文章は、拙稿「官僚たちの夏~IDN,大沢無線など日本のコンピュータ産業,日本航空機製造の所感」と局部的に同じ文章です。

 実は、日本の石炭産業が消滅したのは、世間では石油に負けたと思われていますがエネルギー革命は昭和30年代の話であり、1990年代以降の最終消滅期においては、実は国内の石炭需要自体は増加していました。コークスの原料になったり製紙業界での工場の燃料になったりする他、主な背景事情としては、電力自由化の波の中で、最も安く発電できる発電所が石炭火力発電所だったからという理由があり、地球温暖化防止のために石炭火力発電所建設に急ブレーキがかかる直前の時期でもありました。それでも国内炭鉱が消滅した理由は、安い海外炭に負けたからです。末期には国内炭は、海外炭のざっくり3倍くらいの価格でした。貿易で輸出競争力が無くなる状況は、有り体に申し上げて産業構造の変化の過程では衰退産業です。実は、このような衰退産業を保護する保護主義は経済学的には良いことではなく、さはさりながら人々が不幸になってもいけないので、あるべき処方箋としては、新たな産業を興してそこに雇用を移していく、というのが理想的な産業政策になります。

 「拙日記「官僚たちの夏:日本の綿製品の対米輸出自主規制(感想)」 で解説したとおり、「貿易黒字が経済競争力であるという重商主義的発想」は実は経済学の基礎理論では間違っていて「世間知」と「専門知」とのギャップが激 しい現象だったり(理由はリンク先ご参照)、国際経済学の上では比較優位の理論やヘクシャー・オリーンの定理により、自由貿易が望ましい旨は「専門知」では常識と言っても良いこと になります。この辺りについて詳しくは、経済学の素人さん向けには野口 旭『グローバル経済を学ぶ』(筑摩新書,2007)に載っています。また、国際政治学上も、第一次世界大戦第二次世界大戦の間の戦間期の、例えばスムート・ホーリー法ブロック経済化等の保護主義の応報が第二次世界大戦の遠因の一つになった経験則に立った反省からは、自由貿易は国際平和のためにも重要である旨が、経済学と外交政策との学際領域の分野では常識になっています。この「平和を守るための自由主義」という理念が戦後のGATT設立の契機になり、今日のWTOになりました。

○ 「拙日記「官僚たちの夏:日本の綿製品の対米輸出自主規制(感想)

 

グローバル経済を学ぶ
グローバル経済を学ぶ










 

 ただし、経済学の諸学説の中でも例外的に、19世紀ドイツ歴史学派による幼稚産業保護論だけは「保護主義政策を是とする学説中、素人によるトンデモ学説で はないマトモなもの」として存在しており、私は自由貿易の例外として、新たな産業の育成の産業政策はアリだと私も思いますし、だからこそ、経営学徒としての私の研究テーマに地域産業振興を選んでもおります。しかし、現実の経済政策の上では保護主義要求が沸き起こるのは、これから育成すべき産業よりはむしろ衰退産業である場合の方が多いのですが、衰退産業の保護を正当化する理論は経済学上はありませんさはさりながら、自由貿易にはメリットとデメリットがあり、デメリットの「影」の部分としては、衰退産業における失業の痛みを伴います。このような痛みへの対応策としては、新規産業を興してそこに雇用を移していくことが必要である旨は、「拙日記「官僚たちの夏:日本の綿製品の対米輸出自主規制(感想)」で解説したとおりであると同時に、経営学徒としての私の研究テーマ「地域産業振興」のモチベーションでもあります

 目の前で「行き場の無い大量失業」を防げなかった。衰退産業を保護すべきではないので、「失業」がいけないのではなく、「新たな産業が育っていないために、失業したら再雇用のあてがなく、行き場が無いこと」がいけないのです。石炭政策の最前線の行政の現場で、失業して行く人達の行き場が無いことに心を強く痛めたことが、繰り返しになりますが、経営学徒としての私の研究テーマ「地域産業振興」のモチベーションになりました

 

 

◎ 私が運営するホームページ「炭鉱マニア」上の、夕張市の炭鉱、ならびにNEDO在籍時代に私が担当した炭鉱のページ

炭鉱マニア

○ 北炭夕張鉱(北海道夕張市)

北炭夕張鉱

















○ 三菱大夕張炭鉱(北海道夕張市)

三菱大夕張炭鉱

















○ 三菱南大夕張炭鉱(北海道夕張市)

三菱南大夕張炭鉱

















○ 太平洋炭礦(北海道釧路市)

太平洋炭礦
















○ 池島炭鉱(長崎県西彼杵郡外海町(現・長崎市))

池島炭鉱
















◎ アララギ後継誌(後継短歌結社)『短歌21世紀』所属のアララギ歌人として、池島炭鉱太平洋炭礦の閉山時の思いを詠んだ拙歌(短歌)

○ 拙歌「閉山」30首(平成十四年(2002年)短歌現代新人賞次席入選作品)

 

◎ 当ブログの中の、「官僚たちの夏」に関する日記

○ 『官僚たちの夏』の大沢無線のモデル

○ 『官僚たちの夏』に出て来る夕張と長崎の炭鉱事故のモデル

○ 官僚たちの夏:日本の綿製品の対米輸出自主規制(感想)

○ 官僚たちの夏~IDN,大沢無線など日本のコンピュータ産業,日本航空機製造の所感

○ 官僚たちの夏~江戸川黒い水公害問題と工場再配置計画のモデル

○ 官僚たちの夏の松池炭鉱のモデル

 

◎ 他の方のブログでの、関連する記事

○ ウの目・タカの目: TBSドラマ「官僚たちの夏」に参加してきた! その(7)

○ 官僚たちの夏 その4 - 七色の虹と変化球

○ 官僚たちの夏 炭鉱事故: こんなことしてません?

○ V36スカイラインクーペが欲しい! : 官僚たちの夏 第九話 炭鉱事故

○ 「官僚たちの夏」第9話 またり、すばるくん。/ウェブリブログ

 

◎ 地域産業振興に関する、私の共著,学術論文,学会報告(研究発表)

○ 博士学位論文

・ 神山卓也「地方都市の地域産業振興 - 産業構造の変化に対応していかに地域が生き残るか:鹿児島の観光食料産業クラスターと創業支援を例にして -」(高知工科大学大学院起業家コース博士学位論文,2007)

○ 共著

IT活用で地域が変わる








 

・ 共著:宮崎正康 地域研究会編著『IT活用で地域が変わる 地域活性化・危機管理』(ぎょうせい,2005)

 

木の葉、売ります









・ 共著:高知工科大学大学院起業家コース著『木の葉、売ります。ベンチャーに見る日本再生へのヒント 』((株)ケー・ユー・ティー発行,丸善発売,2006)

 

○ 学術論文

・ 拙稿「地域のマーケティングにおけるITと経営革新-SEMによる訪問型営業プロモーション・モデル」(『日本情報経営学会誌』,2008年09月,Vol.29,No.1)pp.22-29

○ 学会報告(研究発表)

・ 神山「新川崎K2(ケイ・スクエア)タウンキャンパスの事例研究 ― 産学官連携型産業振興を目指して ―」(OA学会『オフィス・オートメーション 第50回全国大会予稿集』,2005年5月)pp.117-120

・ 神山「鹿児島における人口変化と域内人口移動」(OA学会『オフィス・オートメーション 第51回全国大会予稿集』,2005年11月)pp.209-212

・ 神山「ソフトプラザかごしま及びソーホーかごしまに関する事例研究」(OA学会『オフィス・オートメーション 第53回全国大会予稿集』,2006年09月)pp.7-8

・ 神山「営業のスタイルと場のモデル」に基づく、WEB2.0における「SEMによる訪問型営業プロモーション・モデル」の概要」(『日本情報経営学会 第56回全国大会予稿集』,2008年05月)pp.85-88.

・ 神山「鹿児島県における地域ブログ・ネットワークと地域SNS」(『日本情報経営学会 第57回全国大会予稿集』,2008年10月)pp.127-130.

・ 神山「AISASモデルにおけるSEOのメリ・デメに関する考察」(『日本情報経営学会 第58回全国大会予稿集』,2009年5月)pp.135-138.

 

◎ その他の、私の共著ならびに共訳

 

デジタルストラテジー








 

経済成長理論入門








 

クローズド・ワールド








 

 

◎ その他

 

温泉天国・鹿児島温泉紹介!
温泉天国・鹿児島温泉紹介!

 

STATISTICS

 

アルバムの表紙







ロックバンド・STATISTICSの1stアルバムCD「せつなくて...sentimental season」(ジャケットは上(↑)の写真)収録曲(以下(↓)は曲の一部の無料試聴)

○ 夏よ終わらないで

○ 

○ 翔べ!! フェニックス Part II

○ Forever

○ 素敵な恋をいつもしていたいね

○ もっと素直に振る舞えたなら

○ I WANNA STAY MORE

○ 君は粉雪

○ ラブソングはもう歌えない

○ 彼女の素敵なBoy Friend

 

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